1.序章

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 (そん)健二(けんじ)が店に入ったときには、ほぼ片がついていた。  中華街の裏路地にある、飾り箱のように見目の整った中華料理店だ。 磨き上げられた床の上に男たちが血を吐いて倒れている。  生き残っているのは中国風の白い礼服姿の老人と、ほぼ同じ年のスーツ姿の男、ただふたりだけだ。  スーツの男は壁際に追い詰められ、腰を抜かして床にへたり込んでいる。 もうひとりの老人はその前にいた。  死体を道しるべにすれば、老人が護衛を薙ぎ倒してスーツの男を追い詰めたことは明白だった。 殺戮は一方的で、鮮やかですらある。  だが今、老人はひざまずいてうずくまり、痙攣する手を呆然と見つめていた。 「狼星(ロウセイ)」  孫は眼鏡を押し上げて言うと、つま先で茶碗の破片を蹴った。 「毒を盛られながらここまでやるとは。つくづく恐ろしい奴だ」  スーツの男が震える指で老人を差して叫んだ。 「何してるんだ。早く殺せ!」 「それではつまらん」
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