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孫健二が店に入ったときには、ほぼ片がついていた。
中華街の裏路地にある、飾り箱のように見目の整った中華料理店だ。
磨き上げられた床の上に男たちが血を吐いて倒れている。
生き残っているのは中国風の白い礼服姿の老人と、ほぼ同じ年のスーツ姿の男、ただふたりだけだ。
スーツの男は壁際に追い詰められ、腰を抜かして床にへたり込んでいる。
もうひとりの老人はその前にいた。
死体を道しるべにすれば、老人が護衛を薙ぎ倒してスーツの男を追い詰めたことは明白だった。
殺戮は一方的で、鮮やかですらある。
だが今、老人はひざまずいてうずくまり、痙攣する手を呆然と見つめていた。
「狼星」
孫は眼鏡を押し上げて言うと、つま先で茶碗の破片を蹴った。
「毒を盛られながらここまでやるとは。つくづく恐ろしい奴だ」
スーツの男が震える指で老人を差して叫んだ。
「何してるんだ。早く殺せ!」
「それではつまらん」
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