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団地に雪が降ったのは夜が明けてすぐのことだった。
寒波は刃のように鋭かったが、羽関練空は日課を休むことはなかった。
団地内の児童公園に立ち、人差し指と親指を付けて三角形を作った両手をまっすぐ正面に突き出している。
白のスウェットとスニーカーで、上半身は裸になっている。
十二才の誕生日を目前に控えた少年の体は猫のようにしなやかで、見惚れるほど均整が取れている。
目元は年とは不相応に大人びており、どこか猛禽を思わせた。
彼はこの一時間のあいだ微動だにせず、手で作った三角形の中に意識を集中させていた。
一息ごとに長い時間をかけた、規則正しい呼吸が空気を白く濁らせる。
時計台が六時を示し、カチッという音がした。
それを合図に腕を下ろし、最後のひと呼吸を大きなため息に変えた。
頭の雪を払い落とし、ベンチに放り出したシャツと上着を手にしようとしたとき、にゃあと鳴き声がした。
びっくりして中を覗くと、白い猫が丸くなっている。
子猫と呼べない年になったばかりの若い猫で、眼には人間に対する好奇心があふれていた。
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