第二章 ворона (ヴァローナ/カラスの紋章)

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そう...... エマは普通より 少し強かった。 と言うよりか、 かなり強かった。   そんなエマが 自分を襲ったひったくりの事も忘れ、 突然足を止める。 ピタッ。 見れば、 一心不乱に何かを見詰めていた。 「チョット、急に止まるナヨ。危ないッテ。それで......一体、何を見てるんダ?」 すぐ後ろを歩いていて、 ぶつかりそうになった通訳が エマの視線に自身の視線を重ねた。 見れば、 薄暗い路地裏で 薄汚い服を着た若夫婦が 体格の良い男達に囲まれている。 奥さんの方は泣きじゃくり、 旦那の方は 拝むようなポーズを 男達に披露している。 いかにも弱そうな若夫婦は どうやらトラブルに 巻き込まれているようだ。 極寒の地とは言え、 ここは ユジノサハリンスクの中心部。 夜の8時近くともなれば 多くの人が寒さにも負けず 街へと繰り出し、 その景観は 正に繁華街そのものと言えた。 エマはそんな困りきった 二人を見るなり、 ツカツカツカ...... 路地裏へと向かって 歩を進め始める。 すると、 それに気付いた通訳は、 「止めトケ。関わり合わない方がいい」 直ぐ様、エマの腕を掴み、 その行動を制した。 「あいにくあたしは、 イジメが嫌いでな。ああいうのを見逃せない性分なんだ」 ニヤリと笑う。
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