355人が本棚に入れています
本棚に追加
見れば、
薄っぺらい毛布を数枚掛けただけ。
冷たくて固いコンクリートの上に、
そのまま寝ていたようだ。
耐え難いカビ臭が鼻を刺激し、
埃にまみれた虫、蛾などの死骸が
散見されるようなこの空間......
まさか、
ここが彼女の寝室だとでも
言うのだろうか。
常識では考えられない。
そんな牢獄とも言える地下室で
青年は徐に視線を落とし
苦り切った表情でポツリと呟いた。
「『ヴァローナ』の連中だ。奴らがやって来た」
「ヴァローナ?!」
その名を耳にした途端、
裂けんばかりに見開かれた
2つの目からは、
汚れぬ大粒の涙が溢れ出し、
そして頬を伝った。
『ヴァローナがこの家にやって来た』
その事実は
少女にとっても、
そしてこの家にとっても、
『死刑宣告』に等しい
最悪のシナリオである事を
この少女は既に理解していた。
「あわわわわ......」
唇を震わせ
声にもならぬ声を発し続ける。
「大丈夫だから......興奮しちゃダメだ。落ち着いて......さぁ、逃げるよ」
「......」
青年は少女の色白で
か細い手を取ると、
震える膝にムチを打ち
ゆっくりと階段を上っていった。
コツコツコツ......
コツコツコツ......
ステップを踏む度に
粉塵が舞い上がり、
老朽化した
コンクリート壁の表面が
ボロボロと
崩れ落ちてくる。
最初のコメントを投稿しよう!