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静まり切った地下室の階段に、
響き渡る二人の小さな足音。
それ以外に聞こえる音と言えば、
外から僅かに入って来る
サハリン特有の湿った重い雪の音
だけだった。
「ちょっと待って......」
青年は真ん中で分けた
長い金髪を掻き分けながら、
日本人とは違うその白い耳を
恐る恐る重厚な扉に当ててみた。
すると......
「娘はどこだっ?!」
突如、
1階のリビングで
男の太い怒鳴り声が響き渡る!
人の心を持たない鬼が
もしこの世に存在するとしたら......
きっと、
そんな声をしているのであろう。
冷淡、横暴、威嚇、服従、強制、無情、汚れ......
あらゆるネガティブな感情が
刃となって
幼き少女の心を
ズタズタに切り刻んでいく。
「私、恐い......」
見れば、
青年の腕にしがみつき
可哀想な程に
ブルブルと震えていた。
高鳴る小さな心臓の音が、
腕を通して
青年の全身に波紋していく。
恐怖が心を包み込んでいたのは、
何も少女だけでは無かった。
頭がクラクラし、
血が逆流するような感触。
そんな恐怖と言う名の『悪魔』
と必死に戦っている青年も
よもすれば、
直ぐに心が折れそうになる。
自分がしっかりしないで
誰がこの少女を守るんだ!
消えかけた闘志と言う名の『炎』に
自ら油を注ぐ
頼もしき青年だった。
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