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「僕だって初恋…」
ガバッと顔を上げ、大好きな八重歯を見せて笑った。
「ほんと?マジ?」
「だって…洸しか…いない…」
言葉にすれば、どれだけ洸に執着していたのかと恥ずかしくなった。あの夏に別れてから、洸の事しか考えていなかった自分しか思い出せなかった。
「翔…もしかして…いじめられてた?」
「なんで?」
「だって、友達できなくて寂しくて俺といた楽しい思い出ばっか思い出してたのかなって…」
「…いじめられても、友達がいないわけでもないよ。でも、洸と遊んだ思い出が一番楽しかったのは事実だけど…」
「そっか…これからさ、また楽しい思い出、沢山作ろうぜ。翔と色んなとこ行きたい。色んなものを一緒に見て感動したいんだよな…他には?まだ悩んでる事あるんだろ?」
言い当てられたわけでもないのに、ギクっと顔が引き攣った。それを見逃すはずなんてない洸はクスッと笑った。
「何言ったって嫌いになんてならないし、一緒に悩みたいからさ」
何を言っても…何の内容にもよると思うんだけど…でも今この機会に話さなければ、ずっと忘れてしまっていたことを言いだせないまま悩んでしまう。僕に向き合ってくれる今…じゃないのか…
意を決して話そうとすれば、どこからどう話していいのか迷ってしまう。
両手を握り締めた洸は優しく微笑んで待ってくれている。乾いた唇を何度も開けては閉じてを繰り返した。
「…ごめん…忘れたんだ…」
「何を忘れたんだ?」
「…約束…」
ボソボソと呟けば、それを拾った洸は口を紡いだ。暫く沈黙が続き、小さなため息が聞こえた。
やっぱり呆れられたよな…
「…翔は…あの約束を忘れたのに、俺の事ずっと好きだったの?」
約束なんて関係なく、僕は洸をずっと想っていた。手紙を途絶えさせた罪悪感と大好きだった洸がいつの間にか恋愛対象になり、ずっと恋心を抱いて生きてきた。
「…すげーな…翔…」
何が凄いんだと泳がせていた視線を合わせ首を傾げた。
「約束守ってくれて、俺のこと好きでいてくれたんだと思ってたよ。約束なんてなくても…よかったんだな」
伸びてきた手は僕を引き寄せ抱きしめてくれた。
「ありがとうな、翔」
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