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「なんかさ、翔に会ったらいっぱい話したいことあったんだけど…触ちゃうとダメだな…酷くしてごめん」
背を向けた洸の丸めた背中をそっと撫でてみた。あの頃とは違う広い背中。この背中を見ながら僕は手を引かれて歩いていた事を思い出す。
僕の目に映った残像だけを想い、暮らしてきたんだ。それは洸だって同じはずなんだから。
「洸…は、経験あるの?」
男は初めてだと言った。それに含まれるのは女との関係があるということのショックは相当なものだった。流されようと身体をつなげても、考えたくない事のはずなのに意識はどうしても向いてしまう。
はっきりしておいたほうがいい。別に過去のことなんだし咎めても仕方がない。
それに洸は僕を求めて欲しがってくれたことのほうが重要なんだ。
ガバッと振り返る洸の顔は引きつっていた。それは言葉を聞かなくても雄弁に語っているようなものだ。
「違うんだ…なんていうか…好奇心で…その…なんとなく…」
なんとなくでやられた方はたまったもんじゃない。それをどうしようかなんて咎めようとは思ってない。引け目があるんだし…今ここに洸がいてくれたらそれでいい。それに見てればわかる。洸は僕のことを好きだってことは。
「もうさ、目の前をあどけない翔がチラついて、罪悪感しか残らなかった。浮気をした気分でさ、その子とはそれっきり会わなかった」
それは俗にいうヤリ捨てってやつじゃないのか。細い目で洸を見れば顔の前で左右に手を振る。
「違うから!その場だけっていうか…あっちも付き合ってる人がいたし…」
彼氏持ちとシたのか…何も問いただしてはいないのにポロポロとボロを吐く。なんだかそんな洸が可愛くて、そうだな、洸はこんな奴だってことを思い出す。
「もうしないって誓ったんだ。翔じゃないとダメなんだって、こんなに興奮しなかったし…」
次第にシュンとなる洸が可愛くておかしくて堪えていた声が一気に吹き出し声を上げた笑った。
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