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過去を咎めたって何も良いものが生まれてくるわけじゃない。僕にはそんな大それた過去はないけど、それでも気になるのは仕方がないこと。
洸が姑息で嘘を平気でつく奴なら、勘ぐって信用できないだろう。そんな心配はないくらいに洸はあの頃のまま大人になっているように感じた。
「…僕には興奮したんだ」
そう聞けば、鼻先が擦れるくらいに顔を近付けて瞳を合わせたままキスをしてくる。この脈略のない動きでさえ昔のままだ。
「もうどうなるんだろうってくらい興奮した。想像は遥かに超えてて、色っぽくて、綺麗で、可愛くて、堪んなかった。翔は?俺のばっか聞いてないで教えてよ」
教える…教えれるようなことは何もない。ただひたすら洸を想って洸に対して後ろめたさと後悔しながら生きてきた。
「いないよ、誰とも付き合ったことなんてない。モテないし…あんまり興味なかったし…見てたらならわかるだろ」
この歳まで恋愛経験もなく、誰かを好きなったのだって洸しかいない。これ以上聞かれることに嫌気がさして困らせることを口にしてしまう。
「もしかして…さらっぴんだったの?俺が初めて?マジで!嘘!マジ嬉しいんだけど!」
きつく抱きしめられ、なんでそれが嬉しいのかわからず戸惑った。女性なら手つかずは嬉しいかもしれない。
だけど、男の手付かずなんて気持ち悪いだけじゃないのか?
「気持ち悪くないの…?」
「なんで気持ち悪いんだよ!俺が初めてなんてヤバいだろ。めちゃくちゃ嬉しいってーの」
「好きな人はいた?初恋は?」
グイグイと来られても、何もない。洸しかいないんだからなんとも言いようがないが、ここで『洸だけ』なんて言えばもっと嬉しがらせてしまう。それもなんだか癪で言葉を選ぼうとした。
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