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洸に再会してから数日が経った。
毎朝のおはようのメールと、出勤時間を合わせ、言わずもがな洸は出勤時間を把握していて、出かける頃にはマンションの前に立っている。
その姿を見れば、嬉しくて胸が鳴った。またこうやって洸と一緒にいられると思うと嬉しくて堪らなくなる。
洸は一駅で下車、僕は二駅先で下車する。生活圏も職場もかなり近い所に今までいたのかと思うと不思議な感覚を覚える。
僕を見ていた洸はどんな想いで見ていたんだろう。声を掛けることもしなく、ただ毎日をこなすように暮らしていた僕をどう見ていたんだろう。
並んで駅に向かう肩先には、ずっと会いたくて恋い焦がれてていた顔がある。面影を残し少し大人びた洸の横顔。昔と同じように右側立つその感覚は色褪せてはいない。その反面、不安になる気持ちはどんどん広がっていく。
そう、僕は「約束」を思い出せない。会わない間、ただひたすら洸を思い続けていた。それは約束を守るわけじゃない。
連絡を途絶えさせた罪悪感と、胸に下がる勾玉が洸への思いを募らせていたからだ。
なのに、洸を縛りここまで僕を思い続けてくれた「約束」。
それと、再会していきなり身体を繋いでしまった事。欲しがってくれる洸を僕は求めた。
これは本当に良かったんだろうか。幼い子供が交わした約束をこの先も洸は守るように、僕の隣にいてくれる気なんだろうか。
一つ不安に思えば、繋がるように不安の帯は伸びていく。
何を話すわけでもなく、それでも息苦しい空気はない。目が合えば微笑んでくれるし、微かに触れる手の甲に洸の体温を感じて嬉しくなる。
なのにその瞳で見ていた僕はどんな風に映っているのかが怖い。
冴えないサラリーマンになってしまった僕に、幼い頃とは違う僕に、洸はこの先どう思っていくんだろう。
嬉しくて堪らないはずなのに、不安は積み重なるように心に溜まっていく。
「翔、今日何時に終わりそう?俺、定時だから飯作って待ってるわ」
あの頃と変わらない洸に、惹き寄せられるように見つめれば
「どうした?まだ眠い?」
と尋ねてくれる。左右に首を振りその瞳に笑ってみせた。
「早めに帰るね」
そう返せばキラキラ眩しい朝日に負けないくらいの、あの頃と同じ笑顔を見せてくれた。
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