戸惑い

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「か、帰ってから…話そうと思ってだんだけど…俺さ、ずっと翔のことが気になってて…なんでこんなに気になるんだろうって悩んで…その答えが出せるまで結構かかったんだ…もう会えないかもしれない、この先、翔が誰かを好きになって俺のこと忘れて…いい思い出の人になるかもしれないって思った時、それが嫌でたまらなかった。いつだって翔の一番は俺じゃなきゃって…いてもたってもいられなくて…」 湿った手のひらを確認するみたいに何度も繋ぎ直す洸の緊張が伝わってくる。 僕の一番。洸に対して罪悪感はずっとあった。いや、罪悪感で苛まれていた。毎日と言っていいくらい別れた日から洸の事を考えて生きてきた。まだ僕を忘れていないだろうか、怒っていないだろうかと。ついさっきまで会わないようにと祈って母の実家に帰ったのは会わないようにと罪悪感から洸のことを考えていた。 僕だってずっと洸の事ばかり考えていたんだ。それは洸が僕の一番だったってことになる。いや、一番だった。 他に好きになった人もいない。そう言えば誰かを好きになることさえ忘れて洸の事ばかり考えていたんだと、鈍い自分に笑いがこみ上げる。 それだけ、僕は洸が大切で洸との思い出でが眩しくて、それを嫌な思い出にしたくない守りたい一心だったのかもしれない。 「…ずっと一番だったよ。嫌われたくない一心で洸の事考えてた。ずっと子供の頃から洸は僕の一番だった」 「なんで…嫌うんだよ。約束したよな。男に二言はないんじゃないのか?」 子供の約束に二言なんてと笑ってしまいそういなる。それだけ洸は真剣に約束を守ろうとしてくれていたことが嬉しくて辛い。 約束…思い出せないけど… ここで約束ってなんだっけ?なんて聞ける雰囲気じゃない。心にモヤモヤと浮かんでくる罪悪感はまた燻っていく。 「その一番ってのは…恋愛対象の一番なんだって気が付いて…就職が決まって、お、おばさんに翔がどこに住んでるのか聞いた…それで…」 住んでる近くに越してきたのか。こうやって手を繋いでくれてるってことは気持ちは継続してるってこと?その横顔は真剣な面持ちになっていき、 「もうさ!翔に拒否権はないからな!」 人がまばらな車内に叫んだ洸の声が響き渡った。
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