戸惑い

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何を拒否するっていうんだよ… 王様発言をした割に切羽詰まった表情で僕を見る。その表情は俺と同じで不安でたまらないのかもしれないと思うとなんだか安心する。 「拒否なんてしないよ。僕だってずっと洸の事考えて生きてきたんだよ。一緒にいれるなら何も拒否ったりしない」 恋愛対象と言われて自分もそうだったのかと確信は持てないけど、洸の事しか考えてなく洸に触れられる手だけでこんなに満たされるってこと、好きでもう離したくないと思ってる辺り、惚れてるってことなんだと思ってる。いや…惚れてる。 他の人に目がいかないほど昔の洸も、今の洸も僕の心を捕らえて離さない。 いつもの駅に二人で降り立ち、足を向ける先は僕と同じ降り口。慣れた足取りで改札を通りまた向かうのは同じ出口。 降りる間際に「洸の住んでるところに連れてって」と言った。僕の住んでるマンションを知っているなら洸ん住んでいるところも知りたくなる。 顔を引きつらせて渋々頷いた洸が目の前にいるにもかかわらず、なんだかあの幼い頃を思い出させてくれて、ああ、やっと本当に洸に会えたんだとじわじわと実感が湧いて胸が熱くなる。 いつのまにか離れた洸の体温に寂しさを覚えて前を歩くシャツの裾を握りしめる。それに気づいて振り払わない洸は耳が真っ赤に染まっていた。 出口を右に曲がり1本目の路地に入って行く。見なれた光景にドキドキしながら洸の歩くスピードが徐々に落ちて行くことに気がつく。さすがに気まずさが伝わってくる。自分だけが知っている光景を僕に見せることになる。それでも僕だって洸が僕を見ていた光景を見てみたい。 どんな気持ちで僕を見ててくれたんだろう。きっと教えてくれない。なら自分の目で見て感じたい。 どんどん僕のマンションに近付いてくる。空にはマンションの最上階が見えていて、本当にこんな近くに住んでいたんだと、それに全く気付かず暮らして居たんだと思うと、本当に仕事と洸にしか目もくれていない自分に溜息を吐く。 洸を思って暮らしていた僕をどんな風に洸は見ていたんだろう。 その洸もそんな僕を想って、見てくれていたんだろと思うと目は合わなくてもお互いを想って生きたきた実感が湧いて胸を締め付けた。
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