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だけど、洸だけが僕を知っていて、逃げまくっていた僕はどうなるんだろう。一途に洸を想い続けていたって言えるんだろうか。
ずっと考えていた。毎日考えない日はなかったんだ。それは後ろめたいもので僕のそばにいたかったって言ってくれる洸の想いと一緒なんだろうか。
嬉しいと素直に喜んで…言い訳ない。少なくても僕は洸から逃げていた。好きな気持ちより後ろめたさを隠すため必死だったんだ。
立ち尽くす僕の手を洸が握りしめる。もう片方の手を取り両手を顔の前で合わせ、その甲に唇を付けた。
「ずっと…翔が好きだった。ここに越してきてから翔を見かけるたび、毎日楽しくて、それでもこんな近くにいることを言えなくて隠してた。勝手に…一方的に…翔を見てた」
ここで、僕は謝らないといけない、洸を責めることなんて出来ない。僕が起こしたことで洸をくるしめてここに住んでいることを言い出せなくさせていたのは紛れもなく僕なんだから。
「…僕は…洸から逃げてた。手紙も出せず…出せないことに後ろめたくて…なのに洸の事ばかり考えてて…僕だって…ずっと好きだったのに…どこかで逃げることに必死になってた」
「今も…逃げたい?」
そう聞かれて、今は逃げたいなんて少しも思っていないことに気付く。洸が会いにきてくれて、どこかホッとしている。逃げていたくせに現金だと思う。だけどこのては離したくない。
大きく左右に首を振った。
「ホッとしてる。洸に会えて…僕を待っててくれたことに感謝してるよ。僕を選んでくれてありがとう」
「何言ってるっ!選ぶも何も翔しか見てないし!この年まで…初恋の人思い続けてるとかっ…翔は…違うのか?」
そんなの…僕だって他の誰だって洸に代わりになんてならないし、そもそも洸以外の男なんて考えたことがない。女だってそうだ。洸だけなんだって気付く。僕はその手のことに鈍いんだろうか。
言い淀む僕を見て洸の顔つきが変わる。その瞬間、洸を見下ろしていた僕は天井を見ていた。そこには覗き込む洸の険しい顔に返事を忘れたことに慌てた。
「ぼ、僕だって洸…洸しかいらない!」
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