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雨上がり、少女が振り向いた。
流れる群衆のモノクロのなか、
真っ赤なカサにスポットライトが当たったように。
一人立ち止まって微笑んで何か呟いた。
僕は窓から眺めていた。
あの子は誰に微笑んだのだろう。
何て呟いたのだろう 。
もう雨が止んだと気がつかなかったのだろうか。
人混みの中ふと誰かに呼び止められた気がした。
どこか懐かしいような声。
どこか親しげな声。
でも姿は見えない。
どこから声がしたのかわからない。
誰かも思い出せない。
他の人には聞こえていない、
私のなかの誰か。
見上げるともう雨は止んでいた。
流れていく、
色のない世界。
同じテンポ、
同じ歩幅で、
均一的に、
調和的に、
味気ない時間。
不意に誰かが立ち止まった。
色づいた傘。
雨の音が消えた。
見上げるともう雨は止んでいた。
見回すと色に溢れている。
調和は乱された。
混沌、
混乱、
崩壊、
破滅への期待。
しかし次第に調和が戻って行く。
再びいつもの単色の世界へと。
平穏へと。
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