召喚と事件01

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 そしてもうひとり。  彼女はすこしだけクラスから離れた場所に立っていた。  驚いている顔はしているが、不自然なほどになぜかまったく動かない。  釘本瑠花(くぎもとるか)。  陰キャでも陽キャでも隔てなくコミュニケーションをとるコミュ力のバケモノ。ポニテ(重要)。  ソロ充っぽいが一応はいつも同じ友人と一緒にいる。 「なんか、さか──」 「ッ……。すまん……あとで聞く」  俺の報告を受け歌春はやや興奮したようだったが、声は潜めたままだった。 「永朔(えいさく)、周り囲んでるやつら見ろ。日本の……明治ごろの軍服っぽい。  顔立ちは日本人みたいだけど少し違う感じはする。3割2割は西洋人っぽいのがいる。あと言語は似てるけど完全に違うな。  それと、俺らに一番近いところに僧侶っぽいやつが5名立ってる。召喚の儀を実行した術者だと思う」 「タイムスリップ? ……じゃないって言いたいんだよね……」 「ああ。あっても別の世界線じゃねえかな。雰囲気はまんま明治だし、窓からちょっと見える街とか和式の建物が並んでるから……明治日本風異世界だな」 「そこは中世ヨーロッパ風であってほしいな」  異世界といえば中世ヨーロッパ風がいい。俺は別に和物は求めてない。中華も同じく。  なんだ、こう、ゲームらしい世界がいいんだ。  しかし、これはこれで悪くはない。異世界転移できるなら、それに越したことはないだろう。 「俺はこっちの方が好きだけどな。和洋折衷感けっこう好みなんだよ」 「わかんなくもないけどさぁ……」 「……それで、状況は飲み込めたか」 「…………ああ」  間違いなく異世界転移。それも召喚。  クラスメイト全員、もしくはひとりだけが勇者認定されるあれだろう。 「あと、さっき言ったみたいに着てる服が軍服っぽいから軍事関係の儀式だな。僧侶っぽい術者たちは軍に属してるのか、それとも利害関係で手伝ってるのかは不明」  歌春に言われて僧侶たちを観察した。 「……軍服についてる紋章が僧侶の方にはないから別の組織じゃないかな。服装も似通ってない」 「……かもしれないな……。そういえばさっきの、クラスメイトのこと……おい」  歌春が俺の肩を軽く叩く。見ると歌春は一点見つめていた。  いや、俺以外ほとんどのクラスメイトがそちらを見ている。
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