1-2 郷に入っては郷に従え?

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 会議室に連れていかれ、会社に関する講義を受けた。 『LOTUS製薬』は遡ること江戸時代、大阪に拠点を構えていた薬種問屋に繋がる超老舗の製薬会社。 幕末の動乱、世界恐慌、第二次世界大戦、バブル崩壊、震災…… 様々な危機はあったが、全てどうにか乗り越えてきた。しかし、先代社長の時代にとうとう経営がかなり厳しくなってしまった。  そこでヘブンス薬品と姻戚関係を結び資金援助を受け立ち直ることができた。しかし、その姿を見届けるかのように先代社長は三年前に亡くなり、今はその息子が跡を継いで社長になった。 その際、『蓮美製薬』改め『LOTUS製薬』になった。 「ここまでで、質問は?」 「……婚姻関係というのは?」 「社長のお姉様が、ヘブンスさんの専務の奥様だ」 「あぁ、あの方!」  次期社長の専務の奥様。幼稚園に上がったばかりの息子さんと、生まれたばかりの娘さんがいるはずだ。全社行事で以前遠目だが、見かけたことがある。 「あと…… 会社名を変更した理由は何でしょうか?」 「先代は家業を経営難に陥らせたことと、娘を会社を守るための政略結婚に使ったことに心を痛めて居られた。そのせいで次第に病気がちになって、出張先で倒れられ、そのままお亡くなりになった。 当代の社長就任時に心機一転、縁起担ぎということで、今の名前に変えたんだ。 ちなみに、名前は今までにも何回か変わっている。 創業時は『蓮見屋』で、次に「見」を「美」にして『蓮美屋』。 明治維新で東京に拠点を移したことを機に『蓮美製薬』 そして当代社長が、『蓮』を英語にして『LOTUS製薬』」  直近の生々しい暗い歴史に気分が暗くなったが、それよりも江戸時代に『見』から『美』に名前が変わった理由が、なぜかものすごく気になった。しかし、聞こうと思った矢先に講義が終わってしまった。 「おっと、社長が見えたようだ。挨拶に行こう」
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