67人が本棚に入れています
本棚に追加
その日夢を観た。今まで見たことのない夢だった。
『もうあかんわこの子は!』
年配の日本髪を結った女性が、俺を叱っている。なんで叱られなければいけないのか、理由が解らない。それより、なんでこの人は関西弁を話しているのか?
『すんまへん! すんまへん!』
なんで謝ってるのか、なんで涙を流して泣いているのか、なんで関西弁なのか。
まったく意味が分からない。
でも、俺を叱る女性を止める男の声にハッとした。
『いじめんといて!可哀想や!』
それは、いつも見ていた夢中で聞く声と同じ声。彼は誰だ?
確認したかったが、その声の主の顔は涙で滲んだ目には見えなかった。
『若旦那さん依怙贔屓はあきません! 明日の朝までこの子、蔵に閉じ込めておき!』
その言葉通り、俺は自分より背の大きい男の人に引っ張っていかれた。
向かった先は、暗くて狭い蔵。そこに閉じ込められた。
また涙が出始めた。なんでこの夢の中の俺は、泣いてばっかりいるのか。内心呆れてたが、涙は止まらない。しばらく泣いていると、明り採りの窓から何かが投げ込まれた。涙をぬぐいそれを手にとって中を見てみると、懐紙に包んだ饅頭だった。
『……それ、食べ』
聞こえてきたのは、さっき自分を助けようとしてくれた人の声だった。
『……おおきに』
饅頭を口いっぱいに頬張った。空腹の腹に、冷えた心に、甘い饅頭が沁みた。
『おまはんは悪ない。すまんな、助けられへんで……』
『……若旦那さん、おおきに』
なんだろう、この不思議な暖かい、でも苦しい気持ちは。
あの人の名を呼びたい。あの人の名前は……
目が覚めた。
目に見えるのは、いつもと同じ天井。
あれはなんの夢だ? いつも見ていた夢と関係があるのか?
顔が見えないあの人。あの人は誰なんだ……
でも、あの声は…… 夢の中以外でも、どこかで聞いたことがある声だった……
最初のコメントを投稿しよう!