1-3 心頭滅却すれば火もまた涼し?

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 笑顔でそう返すと赤城さんは少し恥ずかしそうにうつむいた。 「……もうちょっと頑張ろ」  前の職場では、会社の近くにある店のローテーション。一人で行ったり、先輩と行ったり、同期と行ったり。さっさと食べたら、すぐに帰ってデスクで突っ伏して仮眠。それが当たり前だった。  悔しいが、今の会社の方がはるかに人間的だ。先輩たちとたわいもない話をしながら、弁当をつつく。食後にお茶を飲みながら、午後の始業時間までまた雑談しながらまったりと過ごす。こんな職場もあるのだと最初は驚いたが、案外気に入り始めた自分がいる。   「そうそう、お仕事どう? もう慣れた?」 「まぁ、ぼちぼちってとこですかね」 「……秘書の方は大丈夫?」  社長室に行ってもすぐに帰ってきて、一日のほとんどを企画営業部の島で過ごす。兼務という触れ込みで入ってきたのだから、皆が心配するのも当然だった。今朝も松田さんに心配された。 「社長が俺を寄せ付けません…… 雑用ばかりしてます……」 「そっか……」  未だによくわかっていない社長という人。同じ会社の人間なら知ってるはずだ。 「赤城さんから見て、社長ってどんな人ですか?」 「そうだな…… 隙がない完璧な人。先代と全然違うから、本当にあの人の息子なのかなって思う」     
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