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数学の教科書
徹夜で勉強するのは、効率が極めて良くないとされている。睡眠をとらずに起き続けていると、脳は加速度的に役立たずになっていき、また睡眠なしでは学んだ内容が脳に定着することもないのだ。
太郎は、そういう徹夜のデメリットは十分に分かったうえで、しかたなく徹夜で数学の勉強をしていた。というか、太郎にとっては、数学の勉強をする時に限って、徹夜のデメリットはメリットとなった。
実のところ、太郎は数学が大嫌いだ。どのくらい嫌いかというと、数学の勉強をしようとすると体が受け付けずに吐くくらいだ。実際、学校での数学の授業の際にはかなりの頻度で体調を崩し、保健室で休憩している。
それでも、数学の勉強を全くしないわけにもいかない。仮に数学の勉強を完全に放棄したら、試験で赤点を取るだけだ。赤点となったら、補習の後に再テストとなるわけで、どのみちそれをクリアするための勉強は避けられない。となれば、赤点を取らずに済む程度に勉強をしたほうが、時間の無駄が少ないというものだ。
幸い太郎は、徹夜をして適度に脳機能が低下した状態であれば、「今勉強しているのは大嫌いな数学だ」という嫌悪感をある程度麻痺させたまま、勉強が進められることに数年前から気が付いていた。なので数学のテストの前日には、徹夜で数学の勉強をし、そのまま極度の睡眠不足の状態のまま数学の試験に臨むのであった。
そんな数学への取り組み方を、恋人の花子には呆れられていたが、太郎にはこのやり方しかないので、仕方がなかった。幸い太郎の地頭はかなり良いほうだったので、そんな状態でも赤点をぎりぎり超えた点数を、高校2年生の今まで、何とか取ることができていた。他の教科はほぼ労せずして満点が取れる太郎にとって、この数学だけが悩みの種であったが、それも来年になれば、太郎がいる文系進学クラスでは数学の授業がなくなるとわかっている。
あともうしばらくの我慢だから、と自分に言い聞かせながら、太郎は睡眠不足の目をこすりつつ、数学の教科書を再度読み込んだ。
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