10. 証明

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「……俺、早川さんに自己紹介してなかった。唐突に質問しにいって、そのまんま」  ううん私こそ、と首を横に振る。  私は彼のフルネームを知らない、彼も私のフルネームを知っているのか、確かめたこともない。でもそれは光揮さんに言ったように「知る必要性がない」と思っていたのではなく、聞けなかったのだ。タイミングを日々逃しながら、今更聞いたら、彼を傷つけてしまう気がして。失望される気がして。  すべて受け身だった私の人付き合い。それを少し変えてくれたのは、まぎれもなくあの人(光揮さん)だったと、今になって思う。 「改めて、早川夏実です」 「改めまして、萩野拓海です」  私たちはどちらからともなく、皮肉に片方の口角を上げて微笑みながら握手をし合う。 ――今更だけど。とあの人みたいに、ニヒルに笑いながら。 「盛り上がっているところ申し訳ないんだが、君たちに先に聞いておきたいことがある。解答によっては、『彼』の遺言は飲むわけにいかない」  教授が軽く咳ばらいをして腕組みをする。私たちは握手の手をほどいて、そろって教授の顔を伺った。
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