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「ねえ、あそこにものすごいイケメンがいる」
「えっどこ?」
そう会話する沙希と友里のそばの研究室を窓から見学していた私は、沙希に腕を引っ張られて吹き抜けの階層が見える大広間まで連れていかれた。
「ほらあの人! めちゃイケメンじゃない?」
「どこ見てんのよ」
全く、と笑いながら上を見上げる。今イケメンウォッチしてる場合?と苦笑しながら。
その瞬間、世界の時間が止まった気がした。
白衣姿で首元から研究員の証であるカードを下げた男性研究員が三人、空中に浮かぶ図面データを指しながら顔を見合わせ、二階の廊下で会話している様子がガラスの壁を通して目に映る。
その一人に私は、確実に見覚えがあった。
雨の日の公園に出没するあの彼。
まぎれもなくその人が、白衣をなびかせて他の男性研究員たちと談笑している。
「光揮さん……?」
誰の耳にも届かないくらい、小さな声で思わず呟く。
その瞬間と光揮さんがこちらを見たのは、ほぼ同じタイミングだった。
彼のその動きをスローモーションみたいに網膜に焼き付けて、私はとっさにそっぽを向く。
こっち見た! とささやく沙希の声をBGMに、彼が妙に敏感に倉木教授という名前に反応した時のことを思い出しながら。
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