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「あれ、早川先輩! 講義終わりですか?」
ご飯よかったら食べませんか? 廊下の向こう側から聞きなれた声が降ってくる。サークルの後輩たちを目の端で捉えて、私は慌てて足を止め、両手を合わせながら頭を下げた。
「ごめん、めちゃくちゃ行きたいんだけどさ、今日お昼予定入っちゃってて」
そうなんですか残念、という後輩の顔を見て少し心が痛む。
でもごめん、ちょっとこれだけは譲れないんだ。
「今度夜にでもいつでもご飯行こうよ、お昼休みだけじゃなくてたくさん話したいし」
「本当ですか! やったぜひぜひ!」
気をつけて行ってらっしゃいです、そう背後で手を振ってくれる後輩たちに手を振り返す。
「夏実先輩、今日もキレイだったね」
「その上、勉強もできるし性格もいいしもう隙がない人だよね、いいなあ憧れる」
後ろから後輩たちの会話が漏れ聞こえてくる。
ごめんね、と心の中だけで呟いて私はすぐに出口に急いだ。
今度こそ校舎内を抜けきって、私ははやる心を押さえつけながら、あえてゆっくり傘をカバンから取り出した。
校舎の一歩出た先には、少しもやがかかった景色が見える。
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