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「まあ心境の変化で手術受けてもいいかなって。それより後10分で講義始まるけど、課題終わったの? 今日の難しかったよね」
「えっうそどこだよ!?」
また授業聞いてなかったのあんた、ほらこれ課題見せてあげるよ写しな。おーサンキュ助かる!
そう騒ぐ後ろにげんなりしていると、突然耳元でごうっと風の鳴る音がした。
「へっ!?」
思わすびくりと肩を震わせる。風のきた方向を見ると、拓海くんが頬杖をしながら気だるげにこちらを見ていた。
「虫。いたから」
ただ空中を指さして、拓海くんは目線を講義室の正面の方向に戻す。言葉は少ないけど、虫がいたから吹き飛ばしといた、と言いたいみたいだ。
不意打ちで耳元に風を当てられて、心臓がひっくり返ったように胸の奥でうるさい。それを落ち着かせながら、私は「そうなんだ、ありがとう」とだけ言った。
拓海くんの向こう側の隣では、成美がじっとこちらを見つめている。手のひらに汗がじんわりとにじんできて気持ち悪い。
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