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「ニューヨーク?」
「あれ、言ってなかったか」
そうかとため息をつき、父が目線を真正面から逸らして言葉を紡ぐ。
私はぼんやりと黙ったまま、彼の次の言葉を待った。
「潤平が留学してるから、そこにちょくちょく様子見も兼ねて行ってるんだ」
ああ、と私は思った。母はいつも、弟の潤平には甘い。そして留学に行っていることすら、私は一言も聞いていない。最後に家と連絡を取ったのは3か月前だから、仕方ないのかもしれないけれど。
「みんな元気そうでよかったよ」
笑顔を作り、画面に向かって私は微笑む。父は先ほどから居心地が悪そうに身じろぎをしている。その様子を見て、言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに、と冷静に思う自分がいた。
「夏実、無理してないか」
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