3.ジレンマ

26/30
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
「無理って何を?」 「学費のこととか、自分ひとりでなんとかできるわけないだろう」 「大丈夫、奨学金で7割は払えるし後の3割はバイトしてるしあてもあるから」  微笑みを崩さず言うと、ますます父親が身じろぎをする。 「いや、潤平にも留学とかさせているし、金銭的には親も援助できるからな。母さんが意地を張ってるだけで」  そろそろ家に戻ってこないか? やっぱり家族は一緒がいいと思うんだが。 そう父親に問いかけられて、私はさらに笑顔の層を厚くする。 「ううん、こっちの方が気楽だし自立したかったからいいの。父さんたちは潤平を見てあげて? 私より全然出来がいいんだから」  画面の中で父が顔を少しゆがめる。その表情を見て、しまったと思った。  別に父を傷つけたいわけじゃない。私は、父は嫌いではなかった。  でも今は大学でのこともあって、どうしても言葉に棘が出てきてしまう。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!