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その言葉に数人が私の顔をちらりと伺う。固まっている私を一瞥して、クラスの女子たちは瀬尾に向き直ってみんなはい私が!と手を挙げる。
「ありがとう」
優しいね、そうしたら後でみんなで行きたいな。そう爽やかに笑うイケメンにクラスがわっと沸く。その間ずっと固まっていた私は、みんなが散った後に瀬尾に話しかけに行った。
「あの、瀬尾くん。私も先生に頼まれたし一応一緒に行っても大丈夫?」
彼は黙って私をまた眺め、ややあって口を開いた。
「ああ、いいよ他に行ってくれる人いるし」
「でも」
変な使命感を持って言葉を紡ごうとする私に、彼は耳を貸せというように手招きした。
「人にお節介妬くよりもまずはさ、自分の見た目何とかした方がいいんじゃない? 俺さ、自己管理出来てないデブって苦手なんだよね」
耳元でささやかれたその言葉の内容がすっと頭に入ってこなくて、私は思わず彼の顔を凝視してしまった。
さらりと額にかかった黒い前髪の間からのぞく、自然にくるりとカールした睫毛に囲まれたアーモンド形の漆黒の目に見つめられて、私は二重の意味で固まった。
瀬尾は真顔に戻り、話はもうないといったように淡々と私から顔をそむける。
ああこれは拒絶の空気だ、と私は悟ってすごすごと自分の席に引き下がった。
そしてそこから、私にとって苦痛の、出口の見えない闇が始まった。
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