4.PTSD

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 翌朝目が覚めると、予感がした。  胸を高鳴らせながら窓のカーテンを開ける。  窓に模様と筋を描く雨粒と上空の灰色の雲を見て、そんな空とは裏腹に私の心に一筋の光が射す。  ずっと待っていた雨がやっと、来た。  心を弾ませながら洗面台に向かう。大学に向かう支度を始めようと、鏡の中に写った自分がブラシを持った。  すんなりとした細い手足と透き通った肌、紅も差していないのに程よく赤く、いつでも色づいている唇、艶やかな黒髪、ぱっちりとしていつつ、少し涼しげな切れ長の目。  あの日父にもらった写真データの、祖母の若いころにそっくりな女が、そこに立っている。  そう、あの日から母に隠れてVR講義型のコースに転換した私は、前の自分を知る者がいない間少しずつ努力を積み重ねた。ハイスクールは遠い進学校をわざわざ選んで受験し、母の盛る大量の食事をいかに必要な分だけ摂取してあとは吐き出すかを身に着け、父にこっそりレーシック手術を受けさせてもらって牛乳瓶のようなメガネもやめた。  そうして手に入れた容姿は、父にあの日もらった若く美しかったころの祖母の写真データにそっくりだった。
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