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本当は、体調なんか別に悪くない。でも私はマスクをして大学に向かう。
マスクをすれば、表情を気にしなくてもよくなるからだ。今の私には、ちゃんとした笑顔ができるのかどうか確信が持てない。
一限目の講義室に入ると、今日も後ろ側の席に座っている瀬尾たちのグループがこぞってこちらを向いた。何人かの女子がすっと目をそらし、口角を上げて肩をつつきあいながら、ちらちらとこちらを伺ってくる。
ああ、この空間から早く出たい。そう瞬間的に思う。
空気がじんわりと体の表面を絡めとっていくような、嫌な予感がした。
自意識過剰かもしれない。別にみんな、私にそこまで興味はないはずだ。そう自分に言い聞かせながら、瀬尾たちと一番遠くになる対角線上の前の方に私は座った。
いつもの席よりももう少し前の方。さっき友里や拓海くんの友人たちが私に気づいて手を振ってくれて、私も応えたけれど、今日はそれよりも少し離れている場所。
周りの声がいつもより波打って聞こえる。その考えを振り払うように、私はテキストを取り出した。
「お前紙のテキストなんて使ってんの? 相変わらず変わってんな、昔も時代錯誤なメガネかけてたもんな」
前に立った影が、私の机からテキストをさらってゆく。
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