4.PTSD

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「瀬尾、暇なの?」  わざと眉毛をしかめて見せながら、私は返してとテキストを取り戻しにかかる。彼はひらりとそれをかわし、空中でパラパラとそれをめくる。  無邪気もすぎると邪気にしか見えない。その様子を眺めながら、私の心にまた闇が降り積もっていくのが見えた。 「うわめっちゃ印つけてる、これ付箋ってやつだろ!? 初めて見た!」 「返して」  返してよ、と心の中で叫びながら、表面上は冷静に、心の中では泣きそうになりながら、ひったくられた自分のテキストを見つめる。  目の前でテキストのページを繰る瀬尾の姿の輪郭がぼやけ始める。  これ以上は、まずい。そう思った瞬間だった。 「なに小学生みたいなことしてんの」  後ろから手が伸びてきて、空中で瀬尾の手の中にあったテキストをかっさらう。  はい、これとテキストを渡してくれた相手を、私はぼやけ始めたままの世界の中で呆然と見上げた。
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