雨の日

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 ローテーブルを腕で押し下げ、体を持ち上げた。浮腫み怠い足。腰も重い。左右に身体を捻り、ソファに無造作にひっかけてあった薄手のジャケットを羽織って部屋を出た。  雨が降ってるのに、なんとなく珈琲が飲みたくなった。とはいえ、お湯を沸かすのもめんどくさい。  ビニール傘をバサッと開き、静かに降る雨の中へ踏み出した。  雨が降っているせいか、街も妙に静かだ。ポタ、ポトッ、ポツと傘が雨粒を弾く音が小さくするだけ。不思議な感覚。聞こえるのは雨傘が弾く音だけなのに、水たまりに弾く音、葉っぱに弾く音。そんないろいろな音色が聞こえてくるような感覚になる。  しばらく歩いて、身を竦めた。やっぱり少し肌寒い。本当は寒いのも苦手だ。  踏み出す足を一旦止めた。やっぱり帰ろうか。こんな雨の日は家の中から外を眺めてるだけの方がいい。振り返ろうとして、ズボンの裾が既にぐっしょり濡れてる事に気づいた。  ズボンの裾を濡らして、なんの収穫も無しに戻る事がバカバカしく思えた。一度してしまった事をなしにはできない。「ふう」とため息をつきながら、そのまま足を前に踏み出した。  どうせ濡れるなら、あったかい珈琲を飲んで帰った方が気持ちだって温まる。  珈琲を飲むのはいいけど、思い当たるカフェと言えば、駅の中に入ってるチェーンのお店くらいだった。わざわざ出てきたんだ。ちょっとした時間つぶしならともかく、せっかくなんだから落ち着いて飲めるお店に入ってみたいなという考えがポッと浮かぶ。  僕は駅の方へ向かう足を止め、携帯で近場の喫茶店を探すことにした。  アプリを立ち上げる。マップには喫茶店が四件表示されている。今いる通りから三つ向こうの通りにある喫茶店を目指した。こんなふうに店を探して入るのも初めてかもしれない。大概は一緒にいる誰かについて行く事が多いからだ。  一つ目の通り、二つ目……あの通りを右か。  マップと風景を交互に見ながら歩いているとブワッと背後から突風が吹いて傘が煽られた。
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