目覚めてみれば

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「なんだって?」  ラカルの声が非難めいたものになるが、ユダは一瞥したきり気にするそぶりはない。 「そこでわかったことがある。帝国が”秘密裏に”記録していた資料によると、あの国に関する人身事故の種類が年代ごとに変わっている。わかるか? あの国に入ろうとして入れなかった者たちのその後だけを抜き出した記録があったのだ」 「秘密裏、に……」 「ああ。帝国は、入ることのできないあの国に関する情報を集めて注視していた。それに好奇心につられてあの国に挑んだ者はただの国民だ。ただの国民があの国に挑もうとするや帝国は見張りをつけその後を調べさせた。――さながら人体実験ではないか」  ユダの怒りはもっともだった。国のトップの調査のために、その危険性も知らせず、身辺を調べられているという実感もわかせぬまま、下手すれば国民を見殺しにし消息を絶たせるのだ。そしてそんな姑息な手段で得た情報を、国は公開もしていない。 「帝国は、あの国に”呑まれた”人間たちのことをなかったことにした。その者は冒険に行くなどと言って実は借金から逃げたと貸金の業者まででっちあげて残された者に耳打ちする、あるいは旅の途中で強盗にあったなどと目撃者まで用意して遺族に納得させる。周囲の評判が良くない者には前者を、実直な者には後者を適用する。ご丁寧に、書類の死者行方不明者の名前の横に、『どんな原因で死んだことにしたのか』まで書いていやがる」  それは帝国にとって、”あの国”の情報は国民にも知られたくない情報であり、それでいて誰よりもよく知っていなければならない情報だったということになる。 「それで……年代別の死因、だっけ。それはどうだったんだ」  ラカルの声は冷ややかだった。 「ああ、聞いてくれよ。あの国ははじめは、人を弾くだけだった。いつしか山の途中で不審な死を遂げるものが多くなり、やがて”行った者は戻らない”に集約された」  そして、とユダが言った。 「戻らない者たちの命がないと仮定すると、”あの国”は人間を食べていることになる」
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