喘ぎ

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 国中に、怨嗟の声が溢れていた。それこそ、何処かの宗教の神に呪われたかのように。  帝国のトップから被差別民まで一様に腹部の痛みを訴え、歩くこともままならぬようになる。国としての機能は麻痺し、隣接する国々から医療団が遣わされたーー主に、母国への流入を阻止する目的で。  彼らは伝染病を想定し、使い捨ての白衣を纏い大量の消毒液を撒き散らしながら進んだ。そして、死者を遺族の同意なく解剖した。  そんな、医療というよりは調査に来たような団体のなかに、ラカルという男がいた。彼の友人がこの国に移住しており、心の片隅で心配していた。  しかし、彼とて好き好んで来たわけではなかった。彼自身医者ではあったが、国立病院の勤務医でなければ仮病してでも断りたかった仕事である。  町医者として新たに医院を構えるのは、貧乏人には難しい。その多くは、親が医者だった人たちだった。親が自営業に過ぎなかった彼は、いつでも呼び出され施術を行う、外科の勤務医として働かざるをえなかった。  しかも、国立病院である。彼は付属の医療学校を出てそのまま配属された訳だが、それはある意味安い学費と引き換えの拘束だった。やりたがらないことに、従事させられる格好である。  ラカルとて、担当の患者が完治すれば嬉しい。医者になった以上、最先端の医療に関われる旨味もあり、やり甲斐がないわけではなかった。卒業後勤務医として働くことを了承して入学した以上、愚痴ることはあれど理不尽に思っていたわけではない。  ーーただ、有無も言わさず医療団の一員にされたときだけは、生まれと学校を呪った。彼にも妻子がいる。国内への伝染病の流入を避けるためと称し、調査を終えて帰国しても国境付近で待機を命じられるとわかっていれば尚更である。 「まるでラットではないか」  自分は、初めから経過観察用に遣わされた存在、いわば実験動物なのだろうと自虐しながら家をでる。そのときだった。
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