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「お前……」
気に留めていた彼その人だった。先ほど家に入るときは見なかったはずだが、今こうして家の前の道路にうつぶせで倒れている。その左手は腹部を押さえているのか胴の下に隠れており、右手は家の方に向けて虚空を掴むように伸ばされている。
「……お、おい」
「う……」
知っている者とはいえ、なにか重大な病原体を持っているかもしれない人間である。外したばかりの手袋を再びつける気にもならず、思わず足でつついたのに、倒れている彼はうめき声をあげた。
ちなみにではあるが、空気感染はしないことが別部隊により報告されている。
「お前、生きているのか」
「なんだ、知り合いか?」
この男が母国を追われたいきさつを知らない小隊長が後ろから声をかけてきた。最終チェックが終わったのだろう。
「あ、いえ……以前こちらに来たときに知り合った知人です」
「そうか。上司にかけあって治療優先順位上位患者にしてもらおう」
それは不要だと、言おうとしたが遅かった。小隊長は、軍隊から派遣されたという通信兵を呼び、通話器をもって本国と通信し始めた。
「本部に通達……第百三十七小隊配下、ラカル外科担当の知人の罹患を確認。治療の許可を求む」
『こちら本部。該当患者の氏名を連絡せよ』
ラカルは顔を青くした。
「ミナル……ミナル、ラターシャです」
小隊長の視線に促されていった友人の名は、もちろん本名ではなかった。
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