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「うっ……」
担架に乗せられ運ばれる彼を見ていると、彼が少し顔をしかめたのが見えた。近づくと、彼は呻いている。
「……ッ」
やや葛藤したのち、旧友の頬を指でなぞる。もちろん、使い捨ての手袋を消費した上で、だ。
それを見ていた上官が、ラカルに声をかける。
「よほど大切な友人なんだな。息があってよかった。必ず助けよう」
「……はい」
正直、複雑な心境だった。患者の治療に関わってしまえば、母国への帰還がさらに遠退いてしまう。ましてや、感染などしたら……。
「葛藤を恥じるな」
ラカルははっと顔をあげた。
「戦場では時に仲間を捨てても撤退を迫られることがある。目の前の友人が、罹患者ということで関わりたくない、しかし友人であるから助けたいーーその葛藤は、生身の人間として恥じることではない」
上官はラカルの荷物を強引に奪い取り背負った。困惑するラカルの背を担架の方へ押す。
「そばにいてやれ。俺は、大切な部下を置き去りにして撤退したことがある。骨すら拾ってやれなかったことを悔いている。原因不明の病ゆえ、力及ばず死なせてしまうことも考えられるが、ラカル、君の友人に、俺はあのときの部下への贖罪をしたい」
ラカルは顔を伏せた。そして自分を恥じた。
おかしくなる前の友人の顔が浮かぶ。よき遊び仲間だったころの、屈託ない笑顔の彼が。
「……死ぬな」
ラカルは呟いた。
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