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「う……んぐ、ああっ」
鉛の塊を腹に入れられたような圧迫感と息苦しさで、彼は目覚めた。
その痛みが、自分はまだ呪いから逃れえていないことを彼にわからせる。
「……ッ、なんで、俺が」
そこまで言って、口をつぐんだ。見知った顔が、何やら切迫した表情で話すなと告げている。
身ぶり手振りで、周囲の目を気にしながらなにかを伝えようとしているのが伺えた。彼は友人の伝える手話の意味を解するや、瞬きをして聞く意思があることを示した。
友はまた誰かの目を盗むようなそぶりで、仰向けに横になるユダの耳に口を近づけた。そしてこう言った。
「お前の名はミナル・ラターシャということになっている。ーー悪く思うなよ」
なるほど、自分は囚われの身なのか。本名がわかるや煙たがられ、排除される。つまりは母国の手に落ちたということだ。
平和のために流血革命を起こす。その考えを持ち国に刃向かった自分は、家族から裏切り者の名を与えられ勘当される。自分は確か、死んだことになっていたはずだ。ユダの存在は、母国でも一部の者しか知らない。
幼なじみに恨めしげに視線をやる。自分がユダであるとわかって、なぜ収容などしたのか。自分に偽名を与え偽の振る舞いを強いる姿は、自分にユダの名を与えた両親そのものではないか。
ーー帝国の真相を知れた。後は死ぬばかりだというのに。なぜよくも……
よくも俺を生かそうとした。
「俺は……助からないぞ」
友人が弾かれるように顔をあげた。
「帝国の王子は死んじゃいない。彼とその伴侶が、帝国の始まりを再現する」
それは不吉な予言だった。
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