家属食堂の人々

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「わんさん!?」 わんさんは飛鳥の腕の中をじっと見つめると、身体を光らせて一瞬のうちに人の姿になった。 現れた白髪の美しい大柄な美丈夫は犬の耳と立派なしっぽを兼ね備えていた。 あまりの事に身を寄せ合って固まる飛鳥と風見に、真輝と呼ばれたわんさんはふっと微笑みかけた。 「だまし討ちの様な事をして申し訳なかった。私は真輝という、その子の実の父親だ」 「父…」 はっとして、飛鳥は言葉をなんとか絞り出した。 「あの夜、私に志咲…真咲を預けていった…?」 「そうだ。前からよくここには顔を出していただろう?お鶴の家は代々熱心に私を信仰してくれていたからな」 「お鶴?」 「おばあちゃんの名前」 風見が問えば、飛鳥がそれに答えた。 「私はこう見えて真神(まかみ)と呼ばれる神だからな」 奥の神棚を指差す真輝に、飛鳥は「これは火事や泥棒から守ってくれる神様だ」と言っていた祖母の言葉を思い返していた。 「犬神…か?」 「違う!私は狼であり純粋な神だ、あんな禍々しいものと一緒にするな」 気分を害した様子の相手に、風見はすんませんでした、と気のない謝罪を返した。 「でも、貴方が父親なら、なんで私達に真咲を?」 「先ほど井上が話した…本名は(しま)、私の従者だが、揉め事というのは事実でな。私は嫁を取っていないのだが、その子は私一人から生まれた子故、権威欲しさに私に娘を嫁がせたい者らから命を狙われているのだ」 「はい!?」 「命を狙われてー」 「じゃなくて!私一人でって言いました?」 思わず突っ込んでしまった飛鳥に対し、真輝は首を傾げた。 「いかにも」 「え?女性ですか?」 「女に見えるか」 「見えないです」 混乱する飛鳥に縞がにこにこしながら口を挟んだ。
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