家属食堂の人々

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「そのお包み、なんか紙はさまってる」 「あ、ほんとだ!みて」 飛鳥も風見に向かい合う形で椅子に腰を下ろした。 赤子をあやしながら鞄を机に置く飛鳥に、危ないなと赤子を支えつつ風見は紙を手に取った。 「『しばらくこの子を頼みます』」 「だけ?」 「だけ」 「まじか」 人差し指を赤子の前で動かしていた飛鳥は、その内容を耳にして情報の少なさに落胆した。 しばしの沈黙の中赤子は暢気なもので、目の前の指をぎゅっと握って口元を緩めた。 それは赤子特有の原始反射と、防衛手段としての生理的微笑なのだが、飛鳥はすっかりときめいてしまった。 「あーーーもう軽率にアラサーに赤子預けるなよ!育てたくなるじゃん!!」 「私はならん」 「風見は動物とか子供とか行動が読めないものがそもそも苦手じゃん」 「意思疎通できない生き物は恐ろしくてしょうがない。七歳くらいからが人間だと思ってるから。だから明日の朝には警察にー」 赤子に目をやった風見が、驚いた様子で椅子からずり落ちた。 「え、どうした風見?」 「ちょ、は?え、それ耳…」 「耳?」 怪訝な顔で風見が指差す先に視線を合わせる。 そこには物音に驚いた顔をした赤子と、お包みに隠れていた頭からピンとのびた犬の様な耳があった。 一瞬取り落としそうになった飛鳥は、それが赤子と気づいて抱え直した。 はっとしてお尻を触れば、そこにもしっぽの様なふわふわした感触があった。 その上股の間に何かあったので、男の子とも判明した。 「かざみ、ラピュタじゃないこれもののけのほう」 「ほんとだ…ちがう、そういうことじゃない、飛鳥おちつけ、なんかこういう兄妹育てる母子家庭のアニメを私は知ってる。あれは駿?」 「not駿だし、多分風見もかなり取り乱してるからおちついて。とりあえず間とって千ちひ観よ?」 取り乱すアラサー女二人の混乱は明け方まで及んだ。
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