家属食堂の人々

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そして食堂は、志咲のおかげで前よりも繁盛していた。 仕事も落ち着き飛鳥が休みの日は食堂を手伝い、志咲が目の届く所にいるようにと店の奥、隅には南向きの神棚がある座敷席の一角に柵で囲ったスペースを作ったのが始まりだった。 それが幼児スペースがある店と口コミで広がり、ママさん方が来る様になったのだ。 「ま、でも志咲のおかげで風見がリーズナブル路線に舵切ってくれてよかったわ」 「チビのメシ用に細々した副菜作るようになったのがウケるとはな」 「だから言ったじゃん、こんな地方の商店街にある大衆食堂で万単位のコース出す方がおかしいって」 「固定客は着いてた」 「そこはほんとお馴染みさんてすごいな」 当初のメニューと価格設定で風見に経営力はないと思っていた飛鳥だが、それでも京都の料亭や海外時代の贔屓客がちらほらと来ていたのには舌を巻いた。 グルマンの執念は恐ろしいものがあるが、そのやり方では黒字にならなかった。 志咲用にと様々な副菜を作るうち、それを店で小鉢として複数選ぶ形で定食にした所客足が伸びたのだ。 小鉢やおかずがにんじんラペや野菜のテリーヌなど小洒落ていることを覗けば、正しく古き良き大衆食堂スタイルである。 「チビ、まだ食うか?」 「んっんー」 「あはは!返事してる」 風見の方を向いて手を伸ばす志咲を、飛鳥は微笑ましく見ていた。 「子供嫌いじゃなかったっけね」 「子供は嫌い」 「でも志咲は可愛いんでしょ?」 「……自分が作ったもん毎日食べてるやつには、愛着も湧いてくる」 ふんっと鼻を鳴らした風見は、カウンターに新しい小鉢を置いた。 「おいしそー!これなに?」 「生麩(なまふ)と九条ネギの鳥そぼろあんかけ。夜のメニューに出す予定」 飛鳥は少しつまんで口に入れた。 生麩のもっちりした食感にダシのきいた甘みのあるあんがからみ、かみしめれば鳥そぼろの旨味が染み出て、シャキッとしたネギの風味が鼻に抜けた。 「あーこれおいしい~」 「こら、それチビの。飛鳥にもやるからほら」 風見は、いくつかのおかずとご飯、みそ汁を並べ、カウンター外に出て来て志咲の隣に座った。 二人で志咲を挟む形で、遅めの昼食を食べた。 なんだかんだ言いつつ、志咲の口にご飯を運ぶ風見に飛鳥はとても温かい気持ちになった。
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