家属食堂の人々

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「なんかさー不思議だよね、この関係性」 「何、私ら?」 「うん。人からどう見えるのかな」 風見はふむ、と左上を見つつ何か考える素振りで志咲の口元にスプーンを運んだ。 「出戻りの姉妹が子連れで帰って来て同居か、同性カップルが養子を迎えたか」 「なるほど。どちらにしろ家族には見えるのかな」 「実際はただの幼なじみと非人間の預り子だけど」 「でもさ、おんなじ家で毎日一緒に寝てご飯食べたら、血は繋がってなくても呼び方は家族でよくないかな。おばあちゃんも似た事よく言ってたし」 「家属食堂?」 こちらに視線を投げる風見の問いに飛鳥は何度も頷いた。 そして南側の壁、天井近くに取り付けられたテレビを指差した。 信心深い祖母が神様もテレビがよく見える位置にと神棚の向かいに設置した場所は、むしろ騒がしくて神様によくないのではと飛鳥は思いもした。 しかし店中の人間の目が集まるには良い場所だった。 「常連さんや飛び込みのお客さんがあのテレビをみつつ一緒に笑って会話して、ご飯を食べて。その程度の繋がりの人たちが、一時ご飯を食べる間は家族みたいになったらいいってここを作ったんだって」 「血は繋がらなくても家に属するから家属食堂ね」 「うん、それが今また割と実現してるの嬉しい」 最近は色々な客層が来る様になった。 老若男女、地方の食堂で緩く過ぎる時間に、飛鳥は祖母が目指していたもののほんの一欠片を見られている気がした。 「そこを継げてるとしたら嬉しいけど」 伸びをしながらさらっとそう言う風見に、昔から彼女は照れ隠しに顔を隠す様に伸びをしていた事を飛鳥は思い出した。 継げているとはただ店を再開したというだけでなく、祖母の思う食堂の形を体現できているならということだろう。 「風見のそういうのなんていうんだっけ、ツンデレ?クーデレ?」 「なんでもカテゴライズする風潮アンチだぞ私は」 「愛おしいなぁと思ったんだよ」 「その感じた愛を夜の開店準備に還元して」 「はいはい」 これ以上踏み込むとキレることが分かっていたので、飛鳥は志咲をベビー仕様になった座敷席に移して、開店準備を始めることにした。
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