家属食堂の人々

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「これはっ」 「数ヶ月間、ありがとうございました。ご迷惑になりますから、すぐにでも連れて退散致します」 そう一礼すると、井上は志咲の方に歩いていき、その小さな身体を抱き上げた。 すぐにでも連れ帰ろうとする男性の様子に、飛鳥は違和感を覚えた。 「待って下さい、もう行かれるんですか?」 「ええ、ご迷惑になりますから」 「何故こんなにも放っておいたんです?」 風見も口を挟み、飛鳥と同じように警戒をあらわにしていた。 「この子はさる高貴な血筋のお子でして。家がもめておりましたので、一時安全のためお預けした次第です」 「そのもめ事は本当に解決したんですか?」 「もちろん。…やけに気になさいますね。あなた方からしたら他人の、それも人外の預かり子。迎えがきてお金も手に入る、他に何か必要ですか?」 先ほどの様子と違い突き放した言い方に、飛鳥は冷や汗をかいた。 丁度男性の腕の中で志咲が目をさまし、こちらを振り向いた目と目が合う。 「あーしゅ」 この頃、何か言葉の様なものを発する様になった。 それが飛鳥の名前を呼んだものかは判断できなかったが、こちらに向けて伸ばされた小さな手を見れば、抱きしめずにはいられなかった。 「志咲っ」 飛鳥はそのまま井上から志咲を奪い返した。 その直後、風見が閉じたトランクを井上に突き出した。 「やはり貴方は信用に欠けます。お引き取りください」 「お気に触りましたか?」 「私はそいつと違って単細胞直情型の感情で言ってるだけじゃないです」 「単細胞で悪かったな」 むっとしながらも志咲を抱きしめている飛鳥を尻目に、風見は言葉を続けた。
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