家属食堂の人々

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「その子の名前、言えますか」 「先ほど貴方も私も呼んでいたでしょう志咲と」 「私が名前を口にしてから、貴方は志咲の名前を呼んだ」 「たまたまです。志咲という名はあらかじめ聞いておりました」 「それですよ」 井上はわからないという顔をした。 飛鳥も戸惑った様子だが、風見には想定済みだった。 「この子のお包みに刺繍してあった名前で、志咲と私たちは呼んでいました。でも文字が崩し文字だったんですよね」 「どういうこと?」 「飛鳥が志咲と呼んだからそうだと思ってたけど、この間きちんと調べたら志って字じゃなかった」 「え!?」 風見は空中に文字を書いた。 「真実の真という字の崩し文字でした。確かに志にも似てました。でもその子の本当の名前は真咲(まさき)です。あらかじめ聞いていた名前が、なぜ私たちと同じ間違った名前だったんですかね?」 歌舞伎役者にでもいそうな風見の鋭い眼光を受けて、井上は目を見開きたじろいだ。 一度天を仰いだかと思えば声を上げて笑い出した。 「いやいや、お見事です。私もお名前は伺っておりませんでしたので」 いったいどうしたのかと飛鳥達は顔を見合わせた。 井上は入り口を振り向き笑いかけた。 「良い方々に目をつけられましたね、真輝(まき)様」 そう声をかけられ入り口から入って来たのは、白い大きな犬だった。
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