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家属食堂の人々
大和飛鳥は深夜にも関わらず、大衆食堂『家属食堂』の引き戸を勢い良く開け放った。
「風見!風見やばい!!」
「うるさっ…深夜にその五月蝿さのがやばいわ」
カウンター席の内側、藍の絞り染め暖簾から風見と呼ばれた金髪の不機嫌そうな女が顔を出した。
飛鳥は風見のもとへと走り寄った。
「いま、そ、空か、空からっ」
「女の子が?」
「ラピュタかよ、ちがう」
「なに、こんな深夜に地方の商店街上空に偶然天空の城がある以外何があんの」
地方ディスを聞き流した飛鳥は己が抱きかかえていたものを風見の目前に差し出した。
「空から赤ちゃんが」
「ラピュタかよ…ってか、はぁ!?」
風見は目を見開き赤子を二度見した。
間違いなく上質な絹のお包みの中、愛らしい顔をした赤子と目があった。
「飛鳥…どっから持って来た」
「だから空から!というか、厳密に言うと上から飛んで来たわんさんが置いてった」
「わんさんてあの白いでかい野良犬か」
「そう」
わんさんとはこの食堂にたまに現れる野良犬のことだ。
白くて大きなシベリアンハスキーのような見た目で、なぜ未だに保健所に捕まらないのか謎なほど目立つ。
賢く、けして人に迷惑をかけない紳士的な犬で、どこか気品さえ感じるとは飛鳥の言だ。
飛鳥がわんさんと呼び餌をやっていたので、動物嫌いな風見でもその存在は覚えていた。
「普通空から犬は飛んでこない」
「なんていうの、後方上から飛び出て来たって感じ?」
「いやわんさんの登場の仕方は知らんけど…どうすんのこれ」
明らかに面倒事を持ってきやがってという顔をする風見に、飛鳥は弁明した。
「だってほっとけないじゃん?赤ちゃんだよ?柿やシャンメリーなら捨て置けるけどさ」
その言葉に、昨年末に飛鳥と二人、街中で夜すれ違った酔っぱらいのリーマン団体にシャンメリーをもらった体験を思いだし、風見はため息をついてカウンターの席に腰を下ろした。
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