そこには何もない。ただ、箱だけ。

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 黒い粒々は、皆一様に疑問符を浮かべた。音楽?ぶつかり合い?錆?果たして彼は、一体何の事を言っているのだろうか? 「お前らがいなくなればいいんだ!」「何を!?」「やめようよ~」  また揉め始める。またぶつかり合い、赤い染みが出来、錆が増える。あの不愉快な錆の音は増え続ける一方だった。  男のいらいらは募る。何をどう間違えてこうなってしまったのだろう?そもそもこいつらは、一体どこから湧いたのだろう?  その内、黒い粒々は大方こういう結論に至った。 「我々より高次の存在など居て良いはずがない!あれはきっと我々が支配すべき存在なのだ!」「そうだそうだ!」「戦争だ! 研究だ!」  黒い粒々は、一気呵成に増殖した。  男は呆れ果てた。自分がどんな存在なのか、どんな状況なのかも分からず、何もかも全てを分かった気になっている。自分達の知っている事が、世界の全てだと思いこんでいる。  彼らには想像もついていないだろう。自分たちが箱の中に湧いただけの矮小な存在で、その外には膨大な世界が存在している事を。  そしてよりにもよって『万物の創造主』たる私に戦いをふっかけようなどと考え、そして勝つ気でいる。  何と滑稽だろう。何と呆れた、惨めな存在だろう。恐れを知らぬ、などという言葉では当てはまらない。蛮勇ではなく、愚かだ。  視覚的にも実質的にも害虫だなと気づき、男はもうこの箱を諦める事にした。 「ではこの箱は棄ててしまう事にするよ」  男の言葉に、箱の中からは数十京もの悲鳴じみた声が聞こえる。 「助けてくれぇ!」「見捨てないでくれ!」「おお、神よ……」「これが終末か!」「やれるもんならやってみろやぁ!」  しかし既に最後の審判は下された。男はもうこの箱に何ら興味がなかった。  男はそっと合わせ蓋を閉じ、その箱をどことも知れぬ暗闇へと放り投げた。そしてどこからまた新しい箱を取り出し、台座に置き、蓋を開ける。  『神』と呼ばれた男は、新しい箱の中にある『宇宙』が生み出す万物の誕生の音、生命の躍動の音を、一からまた楽しむのだった。
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