そこには何もない。ただ、箱だけ。

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 男は箱を開けた。  合わせ蓋の隙間から空気が入り込み、ポンと軽い音を立てて箱は簡単に開いた。  中からは微かに音が聞こえてくる。初めは気付かない程の音であったが、徐々に金属を弾くような、キン、コンと言う音が聞こえ始める。  リズミカルに鳴り響く金属音。段々と音の数が増え、静かな空間を一滴ずつ満たしていく。  男は箱を眺めた。  何と言う事もない、只の白い箱だ。装飾は僅かも施されておらず、特徴といえるような特徴はない。大きい訳でも、小さい訳でもない。ごくありふれた箱だ。  それを台座の上に置き、合わせ蓋を僅かに開けている。その隙間から音は漏れ出し、男の鼓膜を擽る。  箱から漏れでる音の数は増し続け、リズムも種類もバラバラになっていく。低音、高音、響く音、軽い音。それらが早く脈打つように鳴ったかと思えば、ふうっと緩み、穏やかな吐息のように流れていく。それと並行して、別なタイミングで同じように早くなったり、遅くなったり。それが百、千、万、億と加速度的に増えていく。  金属音が小波のように寄せては返す。男は静かに耳を傾け続ける。
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