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「陰陽師って、悪霊払いとかしてくれる人ですか?」
「陰陽師は、大昔は陰陽寮っていう役所で働く役人だったの。星を見て占いをしたり、暦をつくったり、呪術を使ったり、神様を祀る儀式をしたり……。色々と仕事があったんだけれど、現代の一般的なイメージは紗枝子さんの言う通りかもね。今は陰陽寮なんてないし」
紗枝子はその名刺をしばらくじっと見つめていたが、
「私のパパ、誰かに呪われているんですか?」
と、声を震わせて美恵に聞いた。いつも元気いっぱいの彼女が、すごく怯えて心配そうな表情をしている。よほど父である平野首相のことを尊敬し、家族として愛しているのだろう。
「蛇の怨念が総理大臣を祟り殺そうとしていたの。これは巫蠱の術といって、生き物の命を犠牲にしてその生き物の怨念を祟りたい相手にぶつけるというタチの悪い邪法なのよ。だから、呪いをかけた人間は総理大臣の命を絶対に狙っている。何かお父さんに異変があった時は、ハル……弟のケータイに連絡して?」
「あ、あの……。できたら、美恵さんの連絡先を教えていただけたら嬉しいんですが。美恵さんは京都にお住まいなんですよね?」
「ごめん。私、ケータイを持っていないの。でも、今日からは弟と一緒に東京で暮らすことになるから、ハルに連絡してくれたら私にも伝わるわ」
美恵が紗枝子を安心させるために優しい口調でそう言うと、紗枝子は「はい。必ず連絡します」とすがるような目で返事をした。世間知らずで人の言うことを何でも信じてしまう紗枝子は、いきなり現れた陰陽師を名乗る少女の言葉を神様のお告げのようにすっかり信用しているのだ。
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