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再会・その1
「うわ、すごい人だなぁ……」
晴久は渋谷駅のハチ公前に集まったたくさんの人だかりを見て、そう呟いていた。
七年ぶりに再会する姉の美恵との待ち合わせ場所と約束の時間に、内閣総理大臣が街頭演説を始めるとはタイミングが悪い。美恵は京都の山奥の田舎でひいじいちゃんとずっと生活していたから、一万人以上はいるハチ公前の群衆を見たら驚くかも知れない。
「そういえば、この間、教室で平野さんが言っていたな。『私のパパが今度、渋谷駅で街頭演説するから、みんな聞きに来てね』って。今日だったんだ……」
晴久のクラスメイトである平野紗枝子は、内閣総理大臣・平野道隆の娘なのだ。一国の首相の娘だからといって偉ぶったりせず、明るくて気さくな性格のため、クラスの人気者である。そんな紗枝子がお願いしたのだから、この人だかりの中に、絶対にクラスメイトの八割以上は最低でも来ているだろうと晴久は思った。
でも、今はクラスメイトたちのことを気にしている場合ではない。姉の美恵とは七年前に別れて以来、一度も会っていないから、お互いに小さい時の顔しか知らないのである。これだけたくさんいる中で、姉をどうやって見つけ出そうかと晴久は困り果てていた。
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