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(相手が僕の姉ちゃんだからいいけれど、平野さんはいつか悪い人間に手痛くだまされそうで危なっかしいなぁ……。お嬢さまって、みんなこうなのかな?)
内心、クラスメイトの将来を心配する晴久であった。
「美恵さま。もうすぐ夕方になりますよ。日が暮れるまでに土御門の家に行かないと、晴英さまがきっと心配しちゃいます」
夢の葉が美恵の腕を揺すりながら言った。耳と尻尾はすでにちゃんと隠してある。まだまだ未熟な白狐の子どもである夢の葉だが、超がつくほど方向音痴で電車の切符を買うのにも一苦労する世間知らずな主の美恵を無事に京都から東京まで連れて来るため、必死になって路線図、時刻表などをノートにメモって勉強していたのである。そこまで努力したのに、渋谷駅まで来て世田谷の家にたどりつけなかったらと思うと、夢の葉はすごく焦ってしまうのだ。美恵ときたら、ほんのちょっと目を離したすきに迷子になってしまうのだから……。
「うん、そうだね。おじいちゃんが待っていることだし、そろそろ帰ろうか。私たちの家に」
美恵が晴久にそう言うと、晴久は「うん」と頷いた。たった一言の短い返事だが、その一言には何万もの言葉を使っても言い表せない晴久の喜びの気持ちが込められていた。
そう。美恵は帰ってきたのだ。七年の歳月を経て、晴久がいる我が家に。
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