再会・その1

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 紗枝子はお人よしで誰に対しても優しい子なのだが、物凄いおしゃべりだ。一度口を開くとマシンガンのようにペラペラ話す。だから、言葉数があまり多くない晴久は、彼女の早口トークについていけず、最終的には(うなず)くことしかできなくなってしまうのだ。 『国民の皆様、私たち与党はこれまで国民の幸福を第一に考えた政策を行なってまいりました。これからも、そうしていくつもりです。どうか、今度の選挙では何とぞ温かい一票を……』 「う~ん。でも、ここからだとパパの声が聞き取りにくいなぁ。姿もあまり見えないし。土御門くん、もうちょっと前へ行ってみようよ」 「い、いや、僕はここにいなきゃ……」  紗枝子は晴久の腕を引っ張り、人混みをかきわけて、平野首相が演説している選挙カーに近づいた。政治家の演説なんて興味ないし、姉との待ち合わせのほうが大事だと思っている晴久は、(迷惑だなぁ……)と眉をひそめながらズルスルと引っ張られて歩いていく。 「きゃっ!」 「うわ、ごめん。大丈夫?」  晴久は小柄な女の子とぶつかってしまった。  その十歳ぐらいの女の子はぶつかった衝撃で尻もちをつき、「い、いたた……」と泣きそうになっている。
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