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「パパ!」と紗枝子が悲痛な声をあげて、選挙カーへと走る。しかし、選挙カーの周りには動揺した人々が右往左往していて、近寄れるような状況ではなかったのである。
前方の大柄な男のひじが紗枝子の額にあたり、くらくらと目まいがした紗枝子は倒れそうになった。それを支えたのは紗枝子を追いかけてすぐ後ろにいた晴久だった。
紗枝子の華奢な体は、あまり力持ちとは言えない晴久でも十分に軽く、姉の美恵と離ればなれになってからずっと女の子に触れたことがなかった晴久は、まるで壊れ物を扱うかのように慎重な手つきで彼女の体を支えた。
「平野さん。だ、大丈夫?」
女子に対する免疫がない晴久が、気恥ずかしさを隠しながら聞いた。しかし、男子に身体を預けている紗枝子は、そんな恥ずかしいシチュエーションよりも父親のほうが心配でそれどころではない。
「私は平気だけれど、ぱ、パパが!」
選挙カーの屋根の上では、真っ青になった平野首相が息苦しそうにハァハァと荒い呼吸をしていた。そばにいる与党の政治家二人に肩を貸してもらってようやく立っていられる状態だ。
「あの人、呪われています」
晴久のすぐ横にいた金色の瞳の少女が、ポツリとそう言った。
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