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「総理、しっかりしてください。さあ、車の中に戻りましょう」
平野首相は警護のSPに背負われて、選挙カーの中に入った。こうなったら街頭演説どころではない。一刻も早く病院に行かなければと首相の側近たちは焦っていた。側近の一人が座席の背もたれを倒して首相を寝かせようとしたが、彼は座席の前まで来るとビクッと驚いて叫んでいた。
「君は誰だ? いったい、どうやって選挙カーに入った!」
一人の美しい少女が座席に座っていて、車窓に顔をべたりとはりつけながら、人々がパニックになっている渋谷駅前をきょろきょろと何かを探すように見回していたのである。
見たところ都内の学校の制服ではないが、セーラー服を着ていて高校生にしては身長が低いので、おそらく中学生だろう……と思ったが、中学生のわりには胸のふくらみが大きいような気もする。
少女は怒鳴られると、振り向いて平然とこう言った。
「道に迷ったんです。ハチ公の銅像って、どこにありますか?」
道に迷って、なぜ総理大臣の選挙カーに迷いこむのか。
ふざけているのだと思った首相の側近は「ここから出て行け!」と唾を飛ばして叱った。
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