再会・その1

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「お、おい……。何をやっているんだ。はぁ、はぁ……。私は……は、早く横になりたいんだ」 「も、申しわけありません、総理。ですが、怪しげな子どもが……」  一瞬だけ少女から視線を外して平野首相に謝った側近が再び座席を見ると、少女はすでにそこにはいなかった。 「あなた、具合が悪そうですね」  なんと、少女は平野首相の目の前に移動していて、近所のおっさんに話しかけるような気安さで首相に声をかけていたのである。  首相は、突然現れた謎の中学生に戸惑っていたが、呼吸困難に陥っているので「無礼者!」と怒鳴る元気もない。 「これ、どうぞ」  少女は肩にかけていた旅行バッグから一枚のお札を取り出し、首相に手渡した。札に書かれている文字は、黒い墨で「風」と左右に書いてあるのは読めたが、下に朱墨でくねくねと記された呪文のようなものは首相には全く解読できない。  今死にかけているのにこんな怪しげな札を……と首相はその札を少女に突っ返そうとしたが、 「うん? あ、あれ……? あらら?」  不思議なことに、札を手にした途端、死を覚悟するほど苦しかった胸の痛みや呼吸困難が嘘のように消えてしまったのである。
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